さりはま書房徒然日誌7月17日(月)旧暦5月30日

大阪のコーヒーはなぜ苦い?

この暑さにうつらうつらしていると、大阪の薬のように濃いコーヒーの味がふと恋しくなる。

大阪の喫茶店すべてのコーヒーが……というわけではないだろうが、文楽劇場近くの伊吹珈琲店、丸福珈琲店のコーヒーは驚くほど味が濃い。

日経新聞2017年11月9日に「大阪のコーヒー なぜ濃い? 茶道の「お濃茶」意識(もっと関西)」という見出しの丸福珈琲店についての記事があった。

その記事によれば、濃く淹れるために豆や焙煎にこだわるのはもちろん、抽出器具も濃く出るように工夫を凝らし、ミルクも濃いコーヒーに合う特別なミルクを頼んでいる……らしい。

そこまで濃いコーヒーにこだわる理由について、同記事によれば

「(丸福)創業者の伊吹貞雄氏が茶道に精通しており、少量で口をさっぱりさせるお濃(こい)茶の役割をコーヒーに求めたという。「伊吹貞雄は東京の洋食店でシェフをしていた関係で洋食コースの最後に、茶懐石で提供するお濃茶のようなコーヒーを出したいと考えていた」(伊吹取締役)」

たしかにお濃茶ようなコーヒーである。

丸福珈琲の取締役が伊吹さん……黒門市場にある濃いコーヒーの伊吹珈琲店とは名前が同じ。もしかしたら親戚なのだろうか……?

丸福も伊吹も私にとっての大阪の味である。この夏も懐かしい大阪の味を飲むために早く夏バテから回復しなくては……。

なお丸福珈琲は全国にある。コーヒーと合うミニプリンも美味しいし、コーヒーが苦手ならフレッシュジュースも美味しい。丸福で大阪を味わってはどうだろうか?普段は砂糖もミルクも入れないが、丸福の場合はまずブラックで楽しみ、次に砂糖を入れて、最後にミルクを入れて……と三段階の飲み方を堪能できる。

コーヒーの俳句を眺めていて心に残ったものを以下に引用。

コーヒーとでこぽん一つゆめひとつ/臼井文法

コーヒー代もなくなつた霧の夜である/下山英太郎

珈琲の香にいまは飢ゆ浜日傘/横山白虹

青空文庫にて幸徳秋水「翻訳の苦心」を読む

最近、国家の手で無残な死を遂げた人たち、その素顔は……という思いで彼らが書いた文を読む。大杉栄、伊藤野枝……気配りと同時に貪欲な知識欲にあふれる人柄がうかがえ、なぜ……?という思いにかられる。

幸徳秋水「翻訳の苦心」を読み、この時代に早くも翻訳の苦労、喜びを適切につかんでいる明治人の知性に圧倒される。以下、青空文庫へのリンク

https://www.aozora.gr.jp/cards/000261/files/48337_38450.html

師の中江兆民が翻訳について語った言葉。厳しいようだが、その通りだと思う。原著者の文体の良し悪しを見極め、欠点を補うつもりで翻訳しないといけないと思う。

例えば季刊さりはまで訳しているチェスタトンの場合、近い行で、あるいは同じ行で無駄な語の反復が非常に多い。リズムをとっているというよりも、気が緩んでいるとしか言いようがない。

兆民先生は曾て、ユーゴーなどの警句を日本語に訳出して其文勢筆致を其儘に顕はさうとすれば、ユーゴー以上の筆力がなくてはならぬ、総て完全な翻訳は、原著者以上に文章の力がなくては出来ぬと語られた

高徳秋水が目指した文体。実現すれば……と残念に思う。語学力、漢文力のある明治人だから可能な文体だったろうに。

一篇の文章の中でも、言文一致で訳したい所と、漢文調が能く適する所と、雅俗折衷体の方が訳し易い所と、色々あるので、若し将来、言文一致を土台として、之を程よく直訳趣味、漢文調、国語調を調和し得たる文体が出来たならば、翻訳は大にラクになるだろうと思はれる。

以下の文に明治の頃から翻訳は割のいい仕事ではなかったと思いつつ

斯く苦心を要する割合に、翻訳の文章は誰でも其著述に比すれば無論拙い、世間からは案外詰らぬことのやうに言ふ、割の良い仕事では決してない、

翻訳の魅力を語る言葉に、そうなんだよなあ、私もだから翻訳してみたいんだなあと頷くことしきり。

而も能く考へれば一方に於て非常な利益がある、夫は一回の翻訳は数十回の閲読にも増して、能く原書を理解し得ること、従つて読書力の非常に進歩する事、大に文章の修練に益する事等である、

翻訳の社会的必要性をアツく語る幸徳秋水。こんな知性あふれる人間が、なぜ犯していない大逆罪を着せられて半年ほどの審議で死刑に処せられなければならなかったのだろうか……?

是れ唯だ一身の上より云ふのであるが、社会公共の上より言へば、文芸学術政治経済、其他如何の種類を問はず世界の智識を吸収し普及し消化する為めに、翻訳書を多く出さんことは、実に今日の急務である、従つて技倆勝れたる翻訳家は、時勢の最も要求する所である。

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