丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻を読むーユーモアもありロマンチストでもある屋形船おはぐろとんぼー
語り手である屋形船おはぐろとんぼは哲学者でもあり、皮肉屋でもあり、ユーモアあり、ロマンチストでもあり………人間ならこんな語り手はいない。
でも屋形船だから違和感なく、耳を傾けてしまう。
屋形船おはぐろとんぼが、女に逃げられた船頭の大男を見る目のなんとユーモラスなことか。
妻帯生活に窒息させられない自由をこよなく愛したものの
恨むらくは
空想する自由しか得られないことであったが、
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻273頁)
屋形船おはぐろとんぼが、船に訪れる変な人間どもを次々と語る描写もユーモラス。
こういう人っているなあと、その中から一つ引用。
報酬が部下と対等額であることに腹を立てて
任期の満了前にその職を退いた勤め人……
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻281頁)
そんな変な人間たちについて続々と語ったあとだから、おはぐろとんぼのユーモラスさも、描写の美しさも一際心に残る。
そのときどきの好みに応じて音源を選べる
都合のいいことこの上ない聴覚を
思う存分発揮しながら
里のわたりの夕間暮れ
おびただしい数の竜灯に
次々に注油してゆく
老いた神官の侘しい姿を
万感を込めて
眺めることができた。
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻283頁)