2019.02 隙間読書 泡坂妻夫「毒薬の輪舞」

「死者の輪舞」につづく個性派刑事・海方刑事シリーズ二作目、そして悲しいことに、なぜか海方刑事シリーズは本作品が最終巻である。

「死者の輪舞」につづいて「毒薬の輪舞」も病院が舞台である。なぜ泡坂妻夫は病院という舞台を好んだのだろうか?

入院するまではまったく知らない者同士が同じ部屋となり、寝食を共にするなかで生まれる不思議な関係、しかも互いにどこか不調をかかえている……そんな環境に物語になる魅力を感じたのだろうか?

病院には毒薬も、メスも、凶器はそろっているし、人の出入りも激しいし、考えてみれば、ミステリの舞台としては面白い。

「毒薬の輪舞」の舞台は精神病院。そこに臍をなくしてしまった海方刑事が入院してくるという設定。入院患者も海方刑事と同じくらいに個性的。ただ精神科の入院患者のなかにいると、海方のアクの強さが薄らいでしまってやや残念な気が。

登場人物全員が個性的だと、個性が凡庸に見えてきて、だんだん登場人物が錯綜してくる。。

「毒薬の輪舞」というタイトルだけにカタカナの毒薬もたくさん出てくるし……

そのようなわけで目くらましに見事ひっかかり、最後の展開に思いもよらぬ驚きを感じた。ただ物語でも、犠牲者がああいう人物であるのは好きではないけれど。

泡坂氏には、医療ミステリではない、こうした笑いと温かみのある病院ミステリをもっと、もっと書いてもらいたかった。

それにしても病院ミステリを書こうと思ったきっかけは何だろうか? ご自身の入院体験なのだろうか……来月、ご遺族を招いての読書会でお話を伺うことが楽しみである。

2019/02/09読了

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.13

陰気で古色蒼然とした、大きいけれど人気のない建物が高々と、周囲が六、七マイルほどの鹿狩猟苑の中央に姿をあらわした。葉を落とした樫の木の通りがその建物につづいていた。苑地のなかでも、最もわびしい地にいる悲しみにしずむ鷺や憑りつかれたアジサシが、その領地のブラックウォーター・チェイスという名の由来になっていた。実際のところ、その場所は英国北部のマナーハウスというよりは、国境の要塞という方がふさわしかった。

ウォルステンホルムは、昼食後、絵画陳列室と居間に案内してくれ、さらにそのあと苑内を馬で乗りまわした。夜、わたしたちは上階の端にある樫の木でできた大きなホールで夕食をとった。そこには鹿の角がかけられ、戦で使用した時代遅れの鎧や武器、娯楽の品の類が飾られていた。

「さて明日」主が提案したのは、クラレットを口にしながら腰をおろし、燃えさかる炉の炎のまえにしたときであった。「明日、まあまあの天気なら、ムーアで一日猟をしよう。そして金曜日には、これはもう一日長く滞在することに同意してくれたならの話だが、君をブルームヘッドまで車で案内して、公爵の猟犬をつれて馬を走らそう。猟はしないって? そんな君、野暮なことを言うんじゃないよ。このあたりでは、だれもが猟をしているのだから。ところで炭鉱に行ったことはあるか? ないだと? それなら新しい体験が君を待っている。君をカーショルトンの立抗に連れて行って、子鬼とトロールの家を見せよう」

「カーショルトンも、君の炭鉱のひとつなのか?」わたしは訊いた。

「この炭鉱は全部ぼくのものだ」彼は答えた。「ぼくは死者の国ハデスの王で、地上と同様に地下も支配しているというわけだ。ムーアの下の至る所に鉱山がある。このたり一面が、立坑と坑道で蜂の巣のような有様だ。我が鉱層のなかでも、豊かな鉱層のひとつがこの家の下を走っている。 40人以上の男たちが作業に従事しているんだよ、わたしたちのこの足元、四分の一マイルのところで、 それも毎日だ。もうひとつ鉱層が、苑内の地下を走っているけど、それがどのくらいのものかは、神のみぞ知るだろう。父は二十五年前にこの事業をはじめた。それからずっと続けてきている。それでも炭鉱は衰える気配はない」

「君は、親切な妖精がついている王子様と同じくらいに金持ちにちがいない。」

 彼は肩をすくめてみせた。

「そうだね」彼は軽くいなした。「ぼくは十分金持ちだよ。どんな馬鹿げたことでも意のままにやれる。そういう身だから、話のたねはつきない。たしかに、いつも金をつかっている。いつも世界中をほっつき歩いている。いつもやりたいことは即座に満足させている。でも、それが幸せなものかなあ? それはさておき、ぼくはこの十年間、ある実験を手がけてきた。その結果とは? 見たくないかい?」

It was a gloomy old barrack of a place, standing high in the midst of a sombre deer-park some six or seven miles in circumference. An avenue of oaks, now leafless, led up to the house; and a mournful heron-haunted tarn in the loneliest part of the park gave to the estate its name of Blackwater Chase. The place, in fact, was more like a border fastness than an English north-country mansion. Wolstenholme took me through the picture gallery and reception rooms after luncheon, and then for a canter round the park; and in the evening we dined at the upper end of a great oak hall hung with antlers, and armour, and antiquated weapons of warfare and sport.

‘Now, tomorrow,’ said my host, as we sat over our claret in front of a blazing log-fire; ‘tomorrow, if we have decent weather, you shall have a day’s shooting on the moors; and on Friday, if you will but be persuaded to stay a day longer, I will drive you over to Broomhead and give you a run with the Duke’s hounds. Not hunt? My dear fellow, what nonsense! All our parsons hunt in this part of the world. By the way, have you ever been down a coal pit? No?

Then a new experience awaits you. I’ll take you down Carshalton shaft, and show you the home of the gnomes and trolls.’

‘Is Carshalton one of your own mines?’ I asked.

‘All these pits are mine,’ he replied. ‘I am king of Hades, and rule the under world as well as the upper. There is coal everywhere underlying these moors. The whole place is honeycombed with shafts and galleries. One of our richest seams runs under this house, and there are upwards of forty men at work in it a quarter of a mile below our feet here every day. Another leads right away under the park, heaven only knows how far! My father began working it five-and-twenty years ago, and we have gone on working it ever since; yet it shows no sign of failing.’

‘You must be as rich as a prince with a fairy godmother!’

He shrugged his shoulders.

‘Well,’ he said, lightly, ‘I am rich enough to commit what follies I please; and that is saying a good deal. But then, to be always squandering money-always rambling about the world—always gratifying the impulse of the moment-is that happiness? I have been trying the experiment for the last ten years; and with what result? Would you like to see?’

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.12

自分が何を言ったのか殆ど覚えていないが、簡潔な、ともかく厳めしい言葉だった。そんな言葉をいうと、ミスター・スケルトンと学校に背をむけて、村へと急ぎ足で戻った。

丘のふもとに近づいたとき、栗毛の気取った馬にひかれた二輪馬車が「グレイハウンド亭」の扉に駆けつけた。そしてその次の瞬間には、ベイリオル学寮のウォルステンホルムと握手をかわしていた。ベイリオル学寮のウォルステンホルムの端麗な顔立ちは相変わらず、何気なくお洒落なところも同じで、オックスフォードで会ったときより一日たりとも老いたようには見えなかった。彼は両手を握りしめてくると、これから三日間、わたしは客分であると宣言し、ただちにブラックウォーター・チェイスまで送ると言い張った。徒労に終わったが、明日、ドラムリーのなかでも10マイルはなれた二校を調べる予定だと説明した。ドラムリーでは、馬と馬車が待っている。それに「フェザーズ」では部屋が用意されている。だがウォルステンホルムは、辞退する言葉を一笑に付した。

「まあ、君」彼はいった。「馬をやって、その馬に『フェザーズ』への伝言をつけておけばいいじゃないか。それから電報も二通、ドラムリーの駅から二つの学校へ急いで打つんだ。

『不測の事態が発生し、調査は来週に延期になりました』こう言うと、彼は主人顔をしながら、わたしの旅行かばんをマナーハウスに届けるように地主に言いつけた。それから二輪馬車にわたしをおしこみ、栗毛馬に鞭をあてた。するとブラックウォーター・チェイスにむかって、馬車はがたごと走りはじめた。

 

I scarcely knew what I said; something short and stern at all events. Then, having said it, I turned my back upon Mr Skelton and the schools, and walked rapidly back to the village.

As I neared the bottom of the hill, a dog-cart drawn by a high-stepping chestnut dashed up to the door of the ‘Greyhound’, and the next moment I was shaking hands with Wolstenholme, of Balliol. Wolstenholme, of Balliol, as handsome as ever, dressed with the same careless dandyism, looking not a day older than when I last saw him at Oxford! He gripped me by both hands, vowed that I was his guest for the next three days, and insisted on carrying me off at once to Backwater Chase. In vain I urged that I had two schools to inspect tomorrow ten miles the other side of Drumley; that I had a horse and trap waiting; and that my room was ordered at the ‘Feathers’. Wolstenholme laughed away my objections.

My dear fellow,’ he said, ‘you will simply send your horse and trap back with a message to the “Feathers”, and a couple of telegrams to be dispatched to the two schools from Drumley station.

Unforeseen circumstances compel you to defer those inspections till next week!’.And with this, in his masterful way, he shouted to the landlord to send my portmanteau up to the manor-house, pushed me up before him into the dog-cart, gave the chestnut his head, and rattled me off to Backwater Chase.

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.11

「見なかったのか?」わたしは訊いた。

彼はうなずいた。

「わたしは、わたしは、何も見ていません」彼はおずおずと答えた。「なにか見たのですか?」

彼の唇は血の気がひいて白くなっていた。ようやく立っているように見えた。

「そんな、君も見たはずだ!」わたしは声をはりあげた。「そこに映っていたじゃないか? ツタがはえているあの壁に。だれか男の子が隠れているにちがいない。あれは少年の影だった。まちがいない」

「少年の影!」彼はその言葉をくりかえすと、落ち着きを失い、怯えた様子であたりを見まわした。「そんな場所はないはず。少年が、身を隠すような場所は」

「場所があろうと、なかろうと関係ない」わたしは怒りをこめて言った。「もしその少年を見つけたら、その子の肩に感じさせてやろう、わたしの杖の重みを」

 後のほうを、それから前の方を、わたしはあらゆる方向を探してみた。校長は顔には恐怖をうかべ、足をひきずりながら、わたしについてきた。地面は凸凹していて平らでなかったけれど、うさぎ一匹といえども隠れることのできるほどの大きさの穴はなかった。

「では、あれは何だったのだ?」わたしは苛々しながらいった。

「おそらく……おそらく幻影でしょうよ。お言葉をかえすようですが、サー。幻影をご覧になったのですよ」

 彼は打ちのめされた猟犬のように、心底怯え、媚びへつらって見えたる有様なので、先ほど仄めかした杖で、彼の肩を叩くことができれば、わたしはきっと満足を感じたことだろう。

「だが、君は見たんだろう?」わたしはふたたび訊いた。

「いいえ、サー。名誉にかけて申し上げますが、わたしは見ていません、サー。なにも見ていません。何であろうと、なにも見ていません」

彼の表情から、その言葉が嘘であることが見てとれた。彼は影を見ただけにとどまらず、話したことよりも多くを知っているにちがいない。わたしの怒りは、そのときには頂点に達していた。少年の悪戯相手にされるのも、校長にごまかされるのにもうんざりだ。そういう態度は、わたしを侮辱することでもあり、わたしの協会を侮辱することでもある。

‘Did you not see it?’ I asked.

He shook his head.

‘I-I saw nothing,’ he said, faintly. ‘What was it?’

His lips were white. He seemed scarcely able to stand.

‘But you must have seen it!’ I exclaimed. ‘It fell just there-where that bit of ivy grows. There must be some boy hiding-it was a boy’s shadow, I am confident.’

‘A boy’s shadow!’ he echoed, looking round in a wild, frightened way. ‘There is no place-for a boy-to hide.’

‘Place or no place,’ I said, angrily, ‘if I catch him, he shall feel the weight of my cane!’

I searched backwards and forwards in event direction, the schoolmaster, with his scared face, limping at my heels; but, rough and irregular as the ground was, there was not a hole in it big enough to shelter a rabbit.

‘But what was it?’ I said, impatiently.

‘An-an illusion. Begging your pardon, sir-an illusion.’

He looked so like a beaten hound, so frightened, so fawning, that I felt I could with lively satisfaction have transferred the threatened caning to his own shoulders.

‘But you saw it?’ I said again.

‘No, sir. Upon my honour, no, sir. I saw nothing-nothing whatever.’

His looks belied his words. I felt positive that he had not only seen the shadow, but that he knew more about it than he chose to tell. I was by this time really angry. To be made the object of a boyish trick, and to be hoodwinked by the connivance of the schoolmaster, was too much. It was an insult to myself and my office.

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2019.02 隙間読書 近松門左衛門「大経師昔暦」


奥丹波隠れ家の段 平成15年11月公演(国立文楽劇場サイト)より

1715年初演。近松門左衛門が63歳のときの作品。 「大経師昔暦」を 読んでみて「近松さん、なぜ?」と問いかけたくなったり、「近松さん、すてき!」と感心したり。本を読むそばから忘れていく私だが、300年前の作品なのに近松作品には忘れることのできない毒と華があるような気がする。とりあえず「近松さん、なぜ?」と「近松さん、すてき!」の一部分をメモ。

経師とは経巻・仏画を表装する人。大経師は経師のチーフとして朝廷御用を受け、大経師歴の発行権をもつ。今でいえばカレンダー製作業者なのだろうが、そこは江戸時代のことである。暦をつくる大経師は、商家とはいえ格の高い家柄なのである。

この大経師は禁中の御役人、侍同事の町人。 「大経師昔暦」

大経師の 以春 は、女中おたまをつけまわす。

以春むくむく起き上り。後ろ抱きにひつたりと。サア美しい雌猫捕まえたと。乳のあたりに手をやれば。アア、こそばあ。またしては〱、抱付いたり手をしめたり。 「大経師昔暦」

こういう文で学べば古典嫌いも減るかも……というくらいにリアルな文である。この女中の名前は「おたま」、後に意味のない悲劇的な死をとげることになる。だから猫の名前をつけたのだろうか?

猫にも人にも合縁奇縁(あひえんきえん)。隣の紅粉屋(べにや)の赤猫は。見かけからやさしう、この三毛を呼び出すも。声を細めて恥づかしさうに見えて。こいつが男にしてやりたい。「大経師昔暦」

最初のほうでリアルな猫描写が延々つづく。隣の赤猫をほめて、自分の三毛猫の男にしてやりたい……どうでもいいように思えることに筆を巧みに走らせ、ヒロインの「あたしの三毛猫の男にしてあげたい」という気持ちに、ヒロインに共感させてしまう。

女中のおたまのもとに夫・ 以春 が夜モーションをかけに通っていることをしらされた妻・おさんは、おたまの寝床で寝て夫を待つ。男がきた。だが朝になってお互いに相手を取り違えていたことに気が付く。夫だと思っていた相手は手代・茂兵衛。おたまだと思っていたのは、おさんであった。

近松は簡潔に、でもリアルに状況を描写する。

旦那お帰り。はつと消入る寝所(ねどころ)に、汗は湖水を湛えたり。
「大経師昔暦」

おさんと 茂兵衛 は逃避行へ。おたまの叔父、講釈師・赤松梅龍内の家の近くへと逃げ、おさんの両親と会う。その最後、おさん、茂兵衛の影が物干しに映って磔のように見える場面はなんとも不気味である。

二人見送る影法師、賤(しづ)が軒端の物干し。柱二本に月影の壁にあり〱うつりしは。 「大経師昔暦」

さらに叔父の家から首をだした「たま」の影もうつる。

内より、玉は潜戸開け、顔差出すその影の。同じく壁にうつりけり。あれまたここに獄門が。あさましや、この首の、その名は誰としら露。
「大経師昔暦」

最後にふたりは捕まってしまうが、そこへ叔父の 赤松梅龍内 がやってきた。

咎人は一人。すなはち玉が首討つて参るからは。両人の命、お助けくださるべし。 「大経師昔暦」

ここが最大の謎、「なぜなの、近松さん?」とその意図を問いただしたいところ。叔父は玉を可愛がっているし、すぐれた人物。その 赤松梅龍内 がなぜ?と思う。玉の首をみた役人は、証人の玉が死んだ今、おさんと茂兵衛の無実を証明できないと言う。

肝心要、証拠人の首を討つて。何を証拠に詮議あるべき。
「大経師昔暦」

今回、国立劇場での上演はここまでである。原作では、史実と違って、おさんと茂兵衛の命は坊主によって救われる。

尽きせず万年暦、昔暦、新暦。当年羊の初暦、めでたく。開き初めける。
「大経師昔暦」

とめでたく終わるのだが、 赤松梅龍内になぜ可愛い姪「玉」の首を とらせてしまったのか……? 私には謎のままである。ただ、すっきりしないところがあると記憶には残るが。

2019.02.04読了

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.10

学校の建物は真北を向いていた。そしてわたしたちは背中を太陽のほうにむけたまま建物の裏側に立っていた。その建物は壁に飾りもなければ、庇もなく、それでいて高さのある建物だったので、足もとから伸びたわたしたちの影は、くっきりと映しだされていた。

「もうひとつの……もうひとつの影?」彼は口ごもった。「そんなはずはない」

 半マイル以内のところには藪もなければ、木もない。空には雲一つない。なにもない。影をおとしそうなものは、なにひとつなかった。たしかにありえないとわたしも認めた。夢をみたにちがいない。そこで校庭の問題に戻った。「ミスター・ウォルテンホルムに会うべきでしょう」わたしは言った。「わたしのことも伝えてくださってかまいませんよ。望ましい改善だとわたしが言っていたことも」

「それは有難うございます、サー。感謝にたえません」彼はいったが、すべての言葉にへつらいがにじみ出ていた。「ですが、でも、あなた様のお力にすがることができればと思うのですが」

「あそこを見て」わたしは遮った。「あれは幻なのか?」

わたしたちは少年たちの教室の真下、飾りのない壁の下にいた。この壁のうえに、まばゆい陽光をうけて伸びているのはわたしたちの影で、わたしの影と校長の影が映しだされていた。さらにそこには、それほど長くはない影が、 彼の影とわたしの影のあいだに、 でもすこし離れたところに見えていた。あたかも侵入者が奥にいるかのように、くっきりと映しだされ、舞台背景にスポットライトがあてられたかのようだった。一瞬だけれど、もう一度はっきりと第三の影を見た。わたしは声をあげ、ふりかえった。だが、それは消えていた。

The schools faced due north, and we were standing immediately behind the buildings, with our backs to the sun. The place was bare, and open, and high; and our shadows, sharply defined, lay stretched before our feet.

‘A-a shadow?’ he faltered. ‘Impossible.’

There was not a bush or a tree within half a mile. There was not a cloud in the sky. There was nothing, absolutely nothing, that could have cast a shadow.

I admitted that it was impossible, and that I must have fancied it; and so went back to the matter of the playground..‘Should you see Mr Wolstenholme,’ I said, ‘you are at liberty to say that I thought it a desirable improvement.’

‘I am much obliged to you, sir. Thank you-thank you very much,’ he said, cringing at every word. ‘But-but I had hoped that you might perhaps use your influence’-‘Look there!’ I interrupted. ‘Is that fancy?’

We were now close under the blank wall of the boys’ schoolroom. On this wall, lying to the full sunlight, our shadows-mine and the schoolmaster’s-were projected. And there, too-no longer between his and mine, but a little way apart, as if the intruder were standing back-there, as sharply defined as if cast by lime-light on a prepared background, I again distinctly saw, though but for a moment, that third shadow. As I spoke, as I looked round, it was gone!

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2019.01 隙間読書 泡坂妻夫「死者の輪舞」

1985年、泡坂妻夫53歳のときの作品。ミステリの輪舞を楽しませてくれるスピーディな展開と同時に、作者・泡坂妻夫の優しい心根を感じる作品だと思う。

作者は自分を反映させている登場人物をひとりくらいそっと忍び込ませているものだと聞く。

「死者の輪舞」で作者・泡坂妻夫の姿が反映させているとしたら、それはどの登場人物だろうか?

わたしは「尾久フサ」ではなかろうかと思う。看護師の手伝いをし、入院患者たちの話に耳を傾けていた優しい老女「尾久フサ」。

そうした優しい視点があればこそ、「死者の輪舞」犯行の動機を考えたのではなかろうか。ただ、その動機に思いをよせると、あまりに切なく暗澹たる思いにかられそうになる。

暗くなりかけた思いを吹き飛ばしてくれるのが、下品で、図々しく鋭い海方刑事のまきおこす笑いである。

切ない動機を語るには泡坂妻夫は心優しく、冷徹に動機を語りつくしていない感もあるが……。犯罪者にあたたかい目をむける……という点は、泡坂妻夫の強みであり、魅力である反面、もしかしたら弱さであるのかもという気もした。

ちなみに同時並行して読んでいる近松門左衛門「冥途の飛脚」でも、「一度は思案二度は不思案三度飛脚。戻れば合せて六道の冥途の飛脚」と犯罪人になろうとする忠兵衛のゆれる心を見事に描いて、上巻が終わりになる。

つづく下巻では「えいえい烏がな烏がな。浮気烏が月夜も闇も。首尾を求めて逢おう逢おうとさ」と何とも不気味にはじまり、「なにかいいことないか」と郭にきた忠兵衛はうわついた他の男と同じだと近松は語る。さらに冷たく「逢おう」を烏の鳴き声「阿呆・アホウ」に引っかけ、幻の夜烏に「阿呆阿呆」と犯罪者になりかけている主人公・忠兵衛を罵らせるという冷淡さ。

なんと近松は主人公に冷たいことか。犯罪者になろとする主人公にきわめて冷淡な近松作品を読んでいるせいか、泡坂作品の犯罪者への優しい視点がひときわ心に残った。ミステリで犯罪者を描くときに必要なのは、近松的冷淡さか、それとも泡坂氏のような共感的視点なのだろうか……とも迷う。

実際の泡坂氏はどんな人柄の方だったのか……ご遺族を招いての3月24日荻窪にて開催予定の「死者の輪舞」読書会でうかがえたらと楽しみである。

2019/01/27読了

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.9

この男への嫌悪の念は、彼が言葉を発するたびに増大していった。だが、彼にいかなる動機があって、嘘に嘘を積み重ねていったのかということまで考えはしなかった。いかなる意図があろうと、前例のない厚かましさで嘘をついたということだけで十分である。

「視察をつづけよう、ミスター・スケルトン」わたしは蔑みをにじませて声をかけた。

 血の気が彼の顔から一層ひいたようだが、押し黙ったまま頷き、生徒達を順番に呼んだ。

 正直さには欠けるところがあるにせよ、ミスター・エベネザー・スケルトンが素晴らしい校長であることにすぐに気がついた。少年たちへの教育はめずらしく行き届いたものだった。授業を見学したときも、申し分のない有様で、改善したいようなところは残されていなかった。そういうこともあったので、視察が終わる頃、ピット・エンドの少年校に政府の補助金を推薦してもらいたいと言ってきたときには、わたしは即座に同意した。さあ、これでミスター・スケルトンとの一年分の用事をすませたとわたしは思った。しかしながら、ちがっっていた。女子校の建物から出てくると、扉のところには彼の姿があったのである。

過度に謝りながら、五分ほど貴重な時間をさいて頂きたいと彼は申し出た。ささやかな改善点をしめして、彼は訂正しようとした。彼の話によれば、少年たちは中庭での遊びが許されているのだが、そこはとても狭く、いろいろ不都合な点が多いらしい。だが奥の方には空き地が半エーカーほどあって、もし柵で囲めば、見事にその用途を果たすだろう。そう言いながら、彼は建物の裏の方へと進み、わたしも彼についていった。

「この校庭は、だれの土地ですか?」わたしは訊ねた。

「ミスター・ウォルステンホルムのものです、サー」

「それなら、ミスター・ウォルステンホルムに頼んでみてはどうですか? かれが学校の建物を建てたのだから、校庭も同じように喜んでつくってくれますよ」

「いいですか、サー。ミスター・ウォルステンホルムはお戻りになってから、この学校に一度もいらしたことがないのです。訪問の名誉にわたしたちが与る前に、ピット・エンドを去るかもしれません。それに、あの方に手紙をさしあげる自由も、わたしには認められていないのです」

「わたしにしたところで、ミスター・ウォルステンホルムの学校に校庭をつくるために、政府はミスター・ウォルステンホルムから土地を少し購入するべきだとは報告書には書くわけにはいかない」わたしはこたえた。「ただ、べつの状況でなら」

 わたしは立ち止まって周囲を見渡した。

 校長は、わたしの最後の言葉を繰りかえした。

「べつの状況でなら、と言われたようですが。サー」

 わたしはふたたび見渡した。

 「だれかが、ここにいたような気がする」わたしは言った。「第三の人物が、つい今しがたまで」

 「どうしたんです、第三の人物なんて?」

「見えたんだよ、校庭に彼の影が、君の影とわたしの影のあいだに」

My dislike to the man increased with every word he uttered. I did not ask myself with what motive he went on heaping lie upon lie; it was enough that, to serve his own ends, whatever those ends might be, he did lie with unparallelled audacity.

‘We will proceed to the examination, Mr Skelton,’ I said, contemptuously.

He turned, if possible, a shade paler than before, bent his head silently, and called up the scholars in their order.

I soon found that, whatever his shortcomings as to veracity, Mr Ebenezer Skelton was a capital schoolmaster. His boys were uncommonly well taught, and as regarded attendance, good conduct, and the like, left nothing to be desired. When, therefore, at the end of the examination, he said he hoped I would recommend the Pit End Boys’ School for the Government grant, I at once assented. And now I thought I had done with Mr Skelton for, at all events, the space of one year. Not so, however. When I came out from the Girls’ School, I found him waiting at the door.

Profusely apologizing, he begged leave to occupy five minutes of my valuable time. He wished, under correction, to suggest a little improvement. The boys, he said, were allowed to play in the quadrangle, which was too small, and in various ways inconvenient; but round at the back there was a piece of waste land, half an acre of which, if enclosed, would admirably answer the purpose. So saying, he led the way to the back of the building, and I followed him.

‘To whom does this ground belong?’ I asked.

‘To Mr Wolstenholme, sir.’

‘Then why not apply to Mr Wolstenholme? He gave the schools, and I dare say he would be equally willing to give the ground.’

‘I beg your pardon, sir. Mr Wolstenholme has not been over here since his return, and it is quite possible that he may leave Pit End without honouring us with a visit. I could not take the liberty of writing to him, sir.’

‘Neither could I in my report suggest that the Government should offer to purchase a portion of Mr Wolstenholme’s land for a playground to schools of Mr Wolstenholme’s own building.’ I replied. ‘Under other circumstances’.

I stopped and looked round.

The schoolmaster repeated my last words.

‘You were saying, sir-under other circumstances?’

I looked round again.

‘It seemed to me that there was someone here,’ I said; ‘some third person, not a moment ago.’

‘I beg your pardon, sir-a third person?’

‘I saw his shadow on the ground, between yours and mine.’

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.8

その顔には異様なところがあり、血の気は失せ、不安そうな表情がうかんでいた。目つきにも警戒の色がうかんで、おびえているようにもみえる様子に、わたしは妙な不快感におそわれた。

「ええ」わたしは返事をしながら、いつ、どこで彼に会ったのか思い出そうとした。「わたしの名前はフレーザーです。あなたはたしか、そう、ええっとー」そこでわたしはポケットに手をさしこみ、視察の書類をとりだそうとした。

「スケルトンです。スケルトン・エベネザー。最初、男の子たちから話を聴きますか、サー?」

言葉はありふれたものだけれど、男の物腰には用心深いところがあって、敬意の表明のしかたにも不快なところがあった。名前を告げはしたけれど、言わば不承不承であって、さほど重要ではないから言うまでもないという様子であった。

わたしは少年たちから始めようと答えてから移動した。そのときにようやく気がついたのだがーそれまではじっと立っていたので気づかなかったー校長は足が不自由だった。そして、わたしは思い出した。彼は、わたしが霧のなかで出くわした男だった。

「昨日の午後、お会いしましたね、ミスター・スケルトン」学校の応接室に入ると、わたしは声をかけた。

「昨日の午後ですと、サー?」彼は繰りかえした。

「わたしが目に入らなかったようですが」わたしは相手の反応には頓着しないで言った。「あなたに声をかけたのですよ、実際のところ。でも返事はありませんでした」

「そうだとしたら申し訳ありませんが、サー。それは他の者にちがいありません」校長はいった。「昨日の午後は外出しませんでしたから」

どうしても、この言葉は嘘にしか思えないだろう。顔だけならば、わたしも間違えることもあるだろう。相手が異様な顔をしていたとしても、そしてわたしがその顔をじっくり見ていたとしてもだ。でも、不自由な足を間違えることがあるだろうか? そのうえ、足首を骨折したような、妙な右足の引きずり方には尋常ではない不自由さがあった。

わたしが猜疑心にかられた顔をしたのだろう。彼は急いで言い足した。「たとえ視察のために少年たちに用意をさせていなかったとしてもですよ、サー。昨日の午後は、外出しなかったでしょう。じめじめとした霧の多い日でしたから。わたしは用心しないといけないのですよ、胸が弱い質なので」

It was a singular face, very pallid and anxious-looking. The eyes, too, had a watchful, almost a startled, look in them, which struck me as peculiarly unpleasant.

‘Yes,’ I replied, still wondering where and when I had seen him. ‘My name is Frazer. Yours, I believe, is-is-,’ and I put my hand into my pocket for my examination papers.

‘Skelton-Ebenezer Skelton. Will you please to take the boys first, sir?’

The words were commonplace enough, but the man’s manner was studiously, disagreeably deferential; his very name being given, as it were, under protest, as if too insignificant to be mentioned.

I said I would begin with the boys; and so moved on. Then, for we had stood still till now, I saw that the schoolmaster was lame. In that moment I remembered him. He was the man I met in the fog.

‘I met you yesterday afternoon, Mr Skelton,’ I said, as we went into the school-mom.

‘Yesterday afternoon, sir?’ he repeated.

‘You did not seem to observe me,’ I said, carelessly. ‘I spoke to you, in fact; but you did not reply to me.’

‘But-indeed, I beg your pardon, sir-it must have been someone else,’ said the schoolmaster, ‘I did not go out yesterday afternoon.’

How could this be anything but a falsehood? I might have been mistaken as to the man’s face; though it was such a singular face, and I had seen it quite plainly. But how could I be mistaken as to his lameness? Besides, that curious trailing of the right foot, as if the ankle was broken, was not an ordinary lameness.

I suppose I looked incredulous, for he added, hastily:.‘Even if I had not been preparing the boys for inspection, sir, I should not have gone out yesterday afternoon. It was too damp and foggy. I am obliged to be careful-I have a very delicate chest.’

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アメリア・B・エドワーズ「あれは幻影だったのか、それとも……? ある司祭の報告」No.7

そうだ、思い出した。彼の端正な顔も、贅沢な部屋も、少年じみた浪費癖も、とことん怠惰なところも、それでいて崇拝者たちから盲目的な信頼をよせられていたことも、すっかり思い出した。崇拝者たちは、彼が態度をあらためれば、大学が授与しないといけない全ての名誉を授かるだろうと思い込んでいた。たしかに彼は詩人を讃えるニューディギット賞を授けられた。だが、それが最初で最後の受賞だった。それから彼は大学を去ったが、金をむしりとられないうちになんとか脱したものだと噂された。なんて鮮明にわたしの記憶によみがえってきたことか、かつての大学生活の日々も、大学での友情も、ふたたび戻ることはない甘美なときも。わずか十二年前のことなのに、半世紀前のことのように思えた。そして十二年の月日をへた今、オックスフォード時代のように、ウォルステンホルムとわたしはすぐ近くにいるのだ。彼はずいぶん変化したのだろうか。もし変わったとするなら、よい方にか、それとも悪い方へとだろうか?

気前よく金をつかう彼の衝動癖は、立派な長所へと変貌しただろうか? それとも愚かしいところは、悪徳へと転じたのだろうか?

居場所を彼に伝えようか? それも自分で判断するべきなのか? 明日の朝、挨拶状に一筆書いて、お屋敷に送るのはとても容易なことだろう。しかし、意味のない好奇心を満足させるために、交際を再開したところで意味はあるのだろうか? こんな物思いにふけりながら、わたしは夜遅くまで炉辺の火にあたった。寝床にはいる頃には、忽然と姿を消した男のことも、どこから来たのか判然としない少年のことも、わたしの冒険すべてを忘れてしまった。

翌朝、好きなようにできる時間が存分にあったので、挨拶状に一筆しるして、オックスフォードで同窓だったこと、九時から十一時まではナショナル・スクールを調査していることを伝えた。それから宿屋の息子のひとりに頼んで挨拶状をさっさと届けてもらい、わたしは仕事に出かけた。澄み渡った日だった。風向きは北にかわっていたので、日の光が射していても冷え冷えとしていた。煙が小さな村をよごしていた。それでも炭鉱の出入り口に集まっている寒々とした感じの建物は、一年のいかなる時よりも鮮明に見えた。その村は丘の斜面に築かれていた。教会と学校は丘の頂に、「グレイハウンド」は丘のふもとにあった。前の晩に歩いた道をむなしく探しながら、曲がりくねった道を登っていき、墓地沿いの道を歩いていった。やがて学校の建物にたどりついた。教員の住まいも混ざって建物が、中庭の三方をかこんでいた。残る一面には鉄の柵と門があった。中央の扉のうえには銘刻された板がかかり、「この学校は、フィリップ・ウォルステンホルム様により、18――年に再建築された」と記されていた。

「ミスター・ウォルステンホルムとは、この領地の領主でいらっしゃいますよ、サー」へらへらと、こびへつらう声がした。

わたしは振りかえった。すぐ近く声の主がいた。怒り肩の、血の気の失せた男だった。黒づくめの恰好で、片腕に書き方練習帳の束を抱えていた。

「あなたが校長ですか?」わたしは尋ねてみたものの、彼の名前を思い出せなかった。でも彼の顔には微かに見覚えがあったので当惑した。

「ええ、そうです、サー。ミスター・フレイザーとお見受けいたしましたが」

Yes; I remembered all about him-his handsome face, his luxurious rooms, his boyish prodigality, his utter indolence, and the blind faith of his worshippers, who believed that he had only ‘to pull himself together’ in order to carry off every honour which the University had to bestow. He did take the Newdigate; but it was his first and last achievement, and he left college with the reputation of having narrowly escaped a plucking. How vividly it all came back upon my memory-the old college life, the college friendships, the pleasant time that could never come again! It was but twelve years ago; yet it seemed like half a century. And now, after these twelve years, here were Wolstenholme and I as near neighbours as in our Oxford days! I wondered if he was much changed, and whether, if changed, it were for the better or the worse.

Had his generous impulses developed into sterling virtues, or had his follies hardened into vices?

Should I let him know where I was, and so judge for myself? Nothing would be easier than to pencil a line upon a card tomorrow morning, and send it up to the big house. Yet, merely to satisfy a purposeless curiosity, was it worthwhile to reopen the acquaintanceship? Thus musing, I sat late over the fire, and by the time I went to bed, I had well nigh forgotten my adventure with the man who vanished so mysteriously and the boy who seemed to come from nowhere.

Next morning, finding I had abundant time at my disposal, I did pencil that line upon my card-a mere line, saving that I believed we had known each other at Oxford, and that I should be inspecting the National Schools from nine till about eleven. And then, having dispatched it by one of my landlord’s sons, I went off to my work. The day was brilliantly fine. The wind had shifted round to the north, the sun shone clear and cold, and the smoke-grimed hamlet, and the gaunt buildings clustered at the mouths of the coalpits round about, looked as bright as they could look at any time of the year. The village was built up a long hill-side; the church and schools being at the top, and the ‘Greyhound’ at the bottom. Looking vainly for the lane by which I had come the night before, I climbed the one rambling street, followed a path that skirted the churchyard, and found myself at the schools. These, with the teachers’ dwellings, formed three sides of a quadrangle; the fourth side consisting of an iron railing and a gate. An inscribed tablet over the main entrance-door recorded how ‘These school-houses were re-built by Philip Wolstenholme, Esquire: AD 18-.’

Mr Wolstenholme, sir, is the Lord of the Manor,’ said a soft, obsequious voice.

I turned, and found the speaker at my elbow, a square-built, sallow man, all in black, with a bundle of copy-books under his arm.

‘You are the-the schoolmaster?’ I said; unable to remember his name, and puzzled by a vague recollection of his face.

‘Just so, sir. I conclude I have the honour of addressing Mr Frazer?’

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