さりはま書房徒然日誌2024年10月24日(木)

ー製本講座で布の裏打ちに挑戦ー

手製本工房まるみず組製本講座基礎コース第4回で、布の裏打ち、本の表紙に使う布の裏側に紙を貼る技術を教わる。

裏打ちには和紙、包装紙、ピュアガードなど、色んな紙が使えること……
新聞に入っているチラシや菓子折りの包装でも裏打ちができること……
仕上がりの感触を考えて接着剤も変えること……など初めて知ることばかりである。


包装紙でも裏打ちに使えるなら大切にしなくては……と思うものの、相変わらず私は不器用。布を裁つのも真っ直ぐのつもりがジグザグになるし、水で濡らした紙を布にかけようとつまんだら水の重みで「ビリリ」と破けたり……前途多難である。

でも自分でモノをつくるという機会が失われつつある現代、時間をかければ自分の手でオンリーワンの本がなんとか出来上がる……のは楽しみ。頑張ろう。

布はユザワヤのネットショッピングで購入したウイリアム・モリス柄。これでバインダー、和本、布装ノート、夫婦箱を作る予定 。どうかうまくいきますように。

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さりはま書房徒然日誌2024年10月23日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』十月三日を読む

ーダメになっていくのもどこかユーモラスー

十月三日は「私は馬肉だ」で始まり、落ちこぼれた青年によって河原でさくら鍋にされている馬肉が語る。
以下引用文。「落ちこぼれた若者」に及ぼすさくら鍋の効果にびっくり。

ついで
   富者と貧者をきっちり分別したがる
      時の権力の壁を苦もなく取り払う力を与え、


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』268頁)

以下引用文。「たったコップ一杯の焼酎」のせいで、若者のやる気がみるみる崩されてゆく様子が「焦げ付いた私」によってユーモラスに語られている。

その大鼾には自暴自棄と遣りきなさと
   破滅を導く悲しみとが込められていて
      鍋底に焦げ付いた私が立ち昇らせる煙と
         なぜかよく調和している。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』269頁)

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さりはま書房徒然日誌2024年10月22日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二十九日を読む

ー心に残る象ー

九月二十九日は「私はサーカスだ」と、まほろ町を訪れた「二流にも属さぬ お粗末なサーカス」が語る。
以下引用文。お粗末なサーカスの象の哀れな様子が心に残る。「夜になると涙を流していた」という文が、象の佇まいや目を思い浮かべると、しっくりくるものがある。

その象にしても
   かなり老いぼれて
      耳はずたずたに破れ、

頼みの象使いに出奔されてしまったために
   今では単なる客寄せの道具に成り下がり、

それか知らずか
   夜になると涙を流していた。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』254ページ)

以下引用文。サーカスの観客席から青い鳥の声を発しながら大はしゃぎで象を眺める世一。「疑問符の形」という表現が、何に対する疑問符なのだろうか……と考えてしまう。

彼の動きを真似て悲しい巨体をさかんにくねらせたかと思うと
   まだ誰からも教えられていない
      まるめた鼻を疑問符の形にするという
         前代未聞の新しい芸を
            さも得意げに披露したのだ。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』257ページ)

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さりはま書房徒然日誌2024年10月22日(火)

製本の復習をしたけど失敗!

製本基礎講座の二回目で習った糊を使わない製本の復習をする。だが失敗。

二週間前にやったばかりなのに「どうやったのだろう?」と立ち止まる。でも頂いた詳しい資料があるから大丈夫と安心して、きちんと全部読まないで作業したのが主な敗因。
よく読んでみたら
「最後また使いますので残しておく(かがり糸の最初の部分のこと)」
「裏側の紙は、一番小口側の穴だけ開けないで下さい」とちゃんと資料に書いてある。
でも糸は切ってしまった!一箇所小口がわに穴を開けてしまった!と切ってから、穴を開けてから、ハッと自分のミスに気がつく。

そのようなわけで失敗作になってしまったが、製本の復習をしてみると、これでもかこれでもかと自分が分かっていなかったところを認識する。

講座のときは失敗作にならないように先生が見守ってくれていたのだなとあらためて感謝する。

それから今回の復習には、田畑書店ポケットアンソロジーより宮沢賢治「ポラーノの広場」上、中、下を使用した。ポケットアンソロジーは紙の質がいいのだろう。切り込みを入れたり、糸でかがるときに抵抗感があってモタモタ苦労した。

でも軽い紙の表紙をつけ、糸でかがると、ポケットアンソロジーは軽々としていながら丈夫で読みやすさがアップする。失敗作とはいえ、読むのには支障はなく読みやすさはアップした。
ポケットアンソロジーでの製本の復習にハマってしまいそうである。
↓(悲しの失敗作)

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さりはま書房徒然日誌2024年10月20日(日)

神奈川県立図書館ボランティア朗読会「秋といえば……」へ

神奈川県立図書館Lib活1期生の方々が二年かけて積み重ねてこられた朗読の学びを発表するボランティア朗読会、今回は1期生の活動の最後となる卒業発表だそうだ。楽しみなような、寂しいような心持ちで紅葉坂の急な坂を登る。
活動の様子を拝見していると、Lib活の皆さんもこの急な坂を足繁く登り、朗読の練習をされたり、朗読会に向けて企画をされたりしていたようである。暑い日、雨の日は大変だったろう……と思いつつ、座れそうな場所を見つけては休み休み紅葉坂を登る。


今回のテーマは「秋といえば……」で、朗読者其々が秋に因んだ作品を選び朗読して下さった。中には懐かしい作品もあれば、知らない作品もあって、朗読を聴きながら「読んでみたいな」と思う。

今回、朗読して頂いた作品。
・『としょかんライオン』ミシェル・ヌードセン
・『アガワ家の危ない食卓』『風々録その後』より「混沌の秘境」阿川佐知子
・『日本の文学34 内田百閒・牧野信一・稲垣足穂』より「件(くだん)」
・『ごくらくちんみ』より「ぎんなん」杉浦日向子
・『校訂 新美南吉全集第十巻』より「権狐 赤い鳥に投ず」新美南吉

↓写真はプログラムより。朗読者よりのひとことも興味深い。

拝聴しながら思ったのは、それぞれの方の声や読み方の個性と作品世界の特徴がぴったりマッチして、一体化しているということ。「秋といえば……」というテーマで、各人が思い入れのある作品を朗読してくださったからなのだろう。

たとえば、『アガワ家の危ない食卓』「混沌の秘境」の朗読では、まさに混沌の秘境と化した実家の冷蔵庫を片そうとする娘と母のユーモラスなやり取りが、娘の冷蔵庫の様子へのかすかな嫌悪感やら驚き、母親の少し言い訳するようなトーンの朗読によって生き生きと浮かんできた。
もしかしたら朗読者の方の、自分の母親を気遣う気持ちも滲んでいるのでは……と思うほど情のこもった朗読だった。
冷蔵庫の様子に、娘が自分のバッグの様子を重ね、思わず発する嫌悪の言葉が、聞き手の私の心にも刺さってくる。「私もカバンの中を片さないと……」

朗読者を介して、見知らぬ大勢の人たちと作品世界を共有できたひとときのおかげか、紅葉坂のまだ青い紅葉の葉のトンネルが清々しい。帰りは足取り軽く坂を下った。
素晴らしいときをつくってくださった朗読者の方々、神奈川県立図書館に感謝!

またどこかでこのメンバーの朗読に再会する機会がありますように!

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さりはま書房徒然日誌2024年10月19日(土)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二十五日を読む

ー生々しい筈の場面が不思議な感じを帯びてくるー

九月二十五日は「私はカレイだ」と、世一の姉が煮返そうと冷蔵庫から取り出したカレイが語る。
以下引用文。彼女の貯金を狙ってか結婚への甘い言葉を囁くストーヴ職人とのやり取りを振り返る姉。生々しいメロドラマになりやすい場面かと思うが、「深海魚」の例えや鍋の音から「わからん、わからん」という言葉に重ねることで、人間の世界を脱出して、なんとも愉しいメルヘン的色彩を帯びている気がする。

そんなことを呟く際の彼女の顔は
   ほかの魚をまる呑みにして生きてゆく深海魚にどこか似ており
      なんとも不気味で、

すっかり怯えきった私は、
   そうしたことを訊くならほかの者にしてはどうかと勧め、

しかし

   沸騰へ向かって突き進む鍋は
      「わからん、わからん」をくり返すばかりで、

その間にどんどん煮詰まってゆき
   せっかくのおかずが焦げ付き、


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』241ページ)  

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さりはま書房徒然日誌2024年10月18日(金)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二十四日を読む

ー自我とバランスを取り難くー

九月二十四日は「私は存在だ」で始まり、「少年世一の自我としての揺るぎない存在」が語る。

以下引用文を読み、人間とは自我を超えて過剰に怒ったり、喜こんだり、悲しんだりする生き物なのかもしれない……でも、そこが人間たる所以なのだろうか……そんなことを思った。

つまり世一は
   必要以上に私の前にしゃしゃり出ることもなければ
      私の背後からしぶしぶ付いてくるということもなく、

そうした生き方が可能なのは
   まほろ町ではおそらく彼ひとりくらいなもので、


しかしまあ
   人間以外の生き物では
      動物にしても植物にしても
         それが当たり前のことだった。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』235頁)

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さりはま書房徒然日誌2024年10月18日(木)

ひと折り中とじに挑戦したら、冊子が可愛い上製本に変身!

製本基礎講座三回目の今日は、まず、製本の大切な材料であるのりやボンドについて、成分やら作り方、保管方法など細かくレクチャーを受ける。のりでもメーカーによって成分が違うとは知らなかった。

今日はひと折り中とじに挑戦。絵本によく見られる製本方法だそう。

コピー用紙を半分に切って、真ん中部分を糸でかがる。私がかがると糸がゆわーんとしてしまう。でもすぐに先生が直してくださる。

小さな冊子でも、寒冷紗をつけ本文と接着、クロスにボール紙をのせ見返しに接着すれば、小さいながら本らしい感じに。

今日の作業は記憶の彼方に霞みつつあるけど、授業は毎回詳細に手順を記したテキストを配布して頂ける……なので家で復習しようと、色々買い込んだもののどうなるやら?

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さりはま書房徒然日誌2024年10月16日(水)

PASSAGEにある本です!

PASSAGE 1階にある本

神田古本祭りも近いし、丸山健二先生の「言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から 」発売も間近だし……と、PASSAGEとSOLIDAにある本を確認。いつの間にやら増殖していった感があります。こちらに記入漏れや記載ミスもあるやもしれません。価格は税込です。

栗林佐知さんのけいこう舎の本があります。「ぱん歴」も近日中に補充します。

吟醸掌篇vol.4(短篇小説を愉しむ文芸誌)1210円

山﨑ノ箱 1760円

超短篇画集 丘の団欒(まどい)

吟醸掌篇vol.5 ~女性作家ミステリ号~

以上、けいこう舎の本でした。他にもあります。

重信房子 パレスチナ解放闘争史: 1916-2024

シリーズ紙礫18血の九月(SOLIDA出張応援販売に出ているようで、SOLIDAの私の棚か、その近辺にあるかと思います)

季刊さりはま2号

丸山健二文学賞第4回受賞作品「恍惚のトルソー」澤間静吉

丸山健二文学賞第5回受賞作品「終の稜線」中谷嘉秀

丸山健二文学賞第6回受賞作品「流謫の行路」秋沢陽吉

丸山健二「千日の瑠璃 終結」2〜10

丸山健二「人の世界」1980円

(1が売れて再度注文していますが、現在版元が出荷を一時停止されているとのこと。丸山先生がだいぶ手をいれて直しているので早く再開されるようにと思います。ただ厳しい昨今です……)

いぬわし書房のフリーペーパー無料丸山健二先生の最近の文が読めますよ。

SOLIDA2階にある本

出張応援販売ということで、下の棚にも一時的に置いて下さっています。
エチカ・一九六九年以降 福島泰樹歌集 3000円

寺山修司全歌論集1900円

美しき独断 中城ふみ子全歌集 3000円

伊藤裕作「寺山修司 母の歌、斧の歌、そして父の歌」1980円

伊藤裕作「心境短歌 水、厳かに【わたくしたんか みず、おごそかに】」

丸山健二「ラウンド・ミッドナイト 風の言葉」2860円

福島泰樹「うたで描くエポック 大正行進曲」3300円

重信房子「歌集 暁の星」2200円

万葉集 全訳注原文付(1)〜(4)

藤島昌司 「なんじょすっぺ 福島からのメッセージ」200円

綿田友恵 「歌集 父、母、赤鉛筆……」1870円

歌誌月光86号 1100円

中原中也全詩集 角川ソフィア文庫 1606円

寺山修司全歌集(講談社学術文庫 2070) 1386円

沙果、林檎そして: 李正子歌集  1650円

生野幸吉 「闇の子午線パウル・ツェラン」1550円

いぬわし書房のフリーペーパー無料

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さりはま書房徒然日誌2024年10月15日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二十一日を読む

ー藍染だからこその力強さー

九月二十一日は「私は藍だ」で始まる。手織りの布を藍で染め、寝たきりの夫を介護する老婆の染める藍が語る。
以下引用文。老婆は世一を呼び止め、身体を測る。そしてしばらくしてから……が以下の展開である。今まで世の謗りを受けてヨレヨレになったシャツ、老婆が仕立てた藍染のシャツとのコントラストが心に残る。「初秋の空に溶けて 別格の存在に」と語られる世一も……。そうした言葉にこもる思いの強さも丸山先生らしいなあと思う。

汗や土埃
  差別や偏見
     嫌悪や憎悪
        憂いや憤り
           そんなものにまみれてよれよれになった半袖のシャツを手に、


私が全情熱を傾けて染めた
   真新しい長袖のシャツを着こんで
      丘の家へとつづく道をてくてく歩いて登る
         必ずしも儚い命とは言えぬ少年は
            たちまちにして初秋の空に溶けて
               別格の存在と化した。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』225ページ)
    

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