さりはま書房徒然日誌2025年6月19日(木)

製本基礎講座35回「モザイク装飾 皮の装飾」

炎天下、中板橋の通りはいつもと比べたら人影まばらだ。熱風の海を泳ぐようにして手製本工房まるみず組へ。広い工房だけれど、ひんやりエアコンがよく効いていて有難い。

今日は「モザイク装飾 皮の装飾」だ。

次回以降12回かけて学ぶ丸背の改装本のとき、皮を表紙に使うから今日はその練習。

まるみず組の講座のよいところは、少しずつレベルアップさせた形で技術を学ばせてくれるところ。
手製本のように非日常的な作業は、反復がないと中々定着しない。(私の場合、反復してもすぐ忘れるけど)

あらためてカリキュラムを眺めると、丸背の改装本はスリップケースだけで三回もかかるらしい。丸背のスリップケース(函)は確かに難しそうだ。

まず大きなカゴにたっぷり入った皮から選ぶ。色も、感触も様々。↓

選んだ革たち。台紙のボール紙には先生が親切にも紙の目の方向が分かるように印をつけてくださる。↓

布をカッターで切ったあと、端の薄くしたいところを手術用メスで削ぎ落としてゆく。
メスの刃は個包装。メスの刃の付け方、外し方を先生が実践しながら説明してくださる。だが私はモタモタしてしまう。


メスの写真が一枚もないことに気がついた。「メス、怖い」という気持ちが走り、無意識に写真撮影を避けたのかもしれない。

端の厚みを削いで台紙に緑の皮を貼る。皮にもこんなパステルカラーがあるのかと選んだ。
下はメスで作業する時の台。↓

模様を薄い和紙になぞる。
そのあと皮にヘラで和紙の上からなぞって印をつける。
皮の表に印をつけるのに、裏に入れたり。なぞっているうちに和紙の繊維が縮んだのか、大きさが合わないパーツが発生したりして、やり直す。
皮を無駄にしてしまい反省。




各パーツの端をメスで薄く削ぎ取る。
先生が丁寧に説明して実践して下さる。スーと皮は表皮だけ残して、下の部分は切り落とされてゆく
でも私がやると……なぜか切れ味が悪い、動きがすごく悪い。
こんなメスで手術するなんて、外科医のドクターは凄い!
見かねて先生が削ぎ取る作業をかなりやって下さる。有難い。

ポンチで台紙に穴をあけ凹みを作り、穴用の皮にもポンチで穴を作る。
ポンチを拍子木で叩きすぎて台紙にすっぽり穴が空いたりもした、だが何とか誤魔化す。

先生のご指導のおかげで完成!

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さりはま書房徒然日誌2025年6月18日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十七日「私は雑念だ」を読む

うたかた湖のボートに乗る若い修行僧の「雑念」が語る。
修行僧の耳に届く世一の口笛。「青々としたさえずり」という言葉に、山上湖の風景が浮かんでくる。
「あっちへ行け」という修行僧の言葉が、木魂となって帰ってくる様子を「僧侶自身の肩をぴしゃりと叩くことになる」とどこかユーモラスな文で終わりにしている結末も心に残る。

口笛による青々としたさえずりを送りこみながら
   さかんに私を嗾け、

   すると
      僧侶の苛立ちがとうとう限界に達して
         「あっちへ行け!」と怒鳴ってしまう。

その罵声は
   残念ながら相手の耳にはまったく届かず、

空しく周囲の山々に撥ね返ったあと
   最終的には
      僧侶自身の肩をぴしゃりと叩くことになる。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』257頁) 

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さりはま書房徒然日誌2025年6月18日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十四日「私はヨットだ」を読む

山の湖うたかた湖を走るヨット。
以下引用文。ヨットについて語っているようで、所有者たちの人となりや生き方を連想させる文を重ねているので連想が広がっていく面白さがある気がした。

青と白の二色の帆に
   早春の充溢をいっぱいに孕ませた私は
      船体を優越の角度に傾けながら、

軽やかに過ぎるかもしれない
   世間を舐めきったとしか思えぬ快走を保っていた。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』242ページ)

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さりはま書房徒然日誌2025年6月15日

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十三日「私は所見だ」を読む

世一のドクターがカルテに記す希望もないかわりに、悪化もしていないという所見。
そうした所見をずっと聞き続けてきた母親の忍耐と居直り。
以下引用文。最後の文に鬱々とした思いを抱えてきた母親のやり過ごし方、割り切り方、切なさに、小さな、でも必死に生きる人の人生を見る思いがする。

私が連ねる事務的な言葉を
いつものように軽くあしらった世一の母は
   わが子のためではなく
      自分のために買ったチョコレートを
         目にも止まらぬ速さでバッグから取り出して
            さっと口に放りこみ、

そのほろ苦い味を楽しみながら
   懐かし過ぎる娘時代の彼方へと逃げこんで
      それ以降の人生の展開を
         束の間忘れ去る。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』241頁)
          

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さりはま書房徒然日誌2025年6月12日

製本基礎講座34回「マーブリング」

中板橋の手製本工房まるみず組の製本基礎講座34回。今日はマーブリングをする。
次々回から「星の王子様」の丸背改装本を作っていく。そのとき表紙にはマーブリングの紙と皮を使うそうだ。そのためのマーブリング作業である。

周囲には他の作業をされている方がいるから絵の具が飛ばないようにしっかりガード。上とサイドをシートで貼った段ボールを設置。

私も割烹着を着て袖口までしっかりガードする。

絵の具六色、糊二袋、下地定着剤一袋が入ったマドレーの黒箱1500円が良いとのこと。
もうすでに先生が下地定着剤を塗って用意してくださった紙八枚の裏側に名前を書く。
それから糊を少しずつ溶かす。(一気に溶かすとダマが出来るそう)
先生が絵の具ごとの特性を説明してくださる。広がりやすい色とか沈みやすい色とかあるそうだ。

どんな色になるか想像も出来ないながら、ブラシを弾いたり、筆を叩いたりして絵の具を飛ばす。手に絵の具がびっしりつく(後でアルコールで拭いたら綺麗に落ちた)
先のとがった棒で表面を掻き回してゆく。

紙をおいて少ししてから引き上げ、糊を水洗いしてから置く。
こんな思いがけもしない模様の紙に変身していた。

無心に絵の具をたらして紙を広げ……を繰り返すこと八回。
まったく違う紙が八枚誕生した!

この中から一枚を選んで「星の王子様」の表紙にする。どれにしようか迷うところである。

私のように絵心のない不器用でも、なんとか装飾用の紙がつくれるなんて!マーブリングは楽しい。

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さりはま書房徒然日誌2025年6月11日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十二日「私は掛け軸だ」を読む

年老いた芸者が購入した掛け軸。
掛け軸の世界を懸命に眺める芸者。
その目に映る掛け軸の中の世界を語る言葉のみずみずしさ。


掛け軸は、そんな彼女のために季節を変え、戦死した夫を甦らせる。

掛け軸に想いを馳せる言葉の豊かさ、そっと滑りこむ戦死した夫の切なさがわずかなページに、壮大な物語を紡いでいる。

彼女は今
   山頂から雲海を望み、

下露に濡れた山道を散策したり
   咲き初める桃の花の下に佇んだりする
      そんな幸福を思い浮かべながら
春光のすべてを等しく愛で、

それから
   これまで自分がくぐり抜けてきた
      濁りに濁った歳月について
         雑感をさらりと述べ、

行人の影も絶えた私の片隅に
   遺髪をそっと埋める。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』236頁


 

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さりはま書房徒然日誌2025年6月7日(土)

手製本工房で箱作りにトライ!

今日は手製本工房で指導者を目指すコーチング・コースを受講されている方が企画、指導してくださるモニターレッスンで道具を入れる箱作りにトライ。

工房に到着するとコーチング・コースの先生が道具も、材料となるボール紙も寸法通りにカット、作り方の懇切丁寧なプリントも四枚も作成、すべて用意してくださっていた。

お若く、近隣で働いているお忙しい先生なのに、有難いやら、申し訳ないやら。

受講生は全部で定員の三名。他の方はスムーズに作業を進めていかれるが、私はモタモタ。

布に貼る四枚のボール紙の順番を、先生は間違えないようにハッキリ説明してくださる。私も「はい」と頷く。
展開図だから考えれば間違える訳ないのだが……。


哀しいかな。ボール紙にノリボンドを塗り、貼り付け、溝を3ミリ測り……しただけで、「はい」と頷いたことが全て蒸発。
順番を間違えた状態ですべて貼り終える。
気がついた先生は落ち着いて、ささっとボール紙を剥がし、私はもう一度トライ。


なぜ、こんなところで間違えるのだろうか?
以降、先生は私に説明するときは分かりやすく図に描いて説明して下さる。なんて優しい……。


先生のおかげで無事に完成!ひたすらご指導に感謝する次第である。

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さりはま書房徒然日誌2025年6月6日(金)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十日「私はガラス窓だ」を読む

「あまりぱっとしないドライブインの ひびだらけのガラス窓」という如何にも寂しい存在が語るのは、中で食事をしている世一の家族。
その様子を覗きこむ黒いむく犬を連れた丸山先生らしい小説家。

以下引用文。世一と黒のむく犬の視線が合う瞬間。双方の純粋無垢が感じられて好きな箇所である。
また「音に敏感に反応して揺れる玩具を思わせる」という言葉に、世一のどこか浮世離れした姿と純な眼が浮かんでくる。

音に敏感に反応して揺れる玩具を想わせる
   なんとも奇妙な動きをするその病児は
      熊の仔にそっくりな犬を
         見るともなしに見ており、


両者のあいだに何も介入しておらず
   光も影もなく
      この私ですら
         存在していない。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』227ページ)


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さりはま書房徒然日誌2025年6月5日(木)

手製本基礎講座33回 布装・角背改装本6/6回 スリップケース作り

中板橋にある手製本工房まるみず組の手製本基礎講座33回。
六回にわたる改装本の過程も今日が最後。スリップケース(箱)を作って完成。

本に函があると嬉しいもの。保護してくれるし、なんとなく特別な一冊になるワクワク感がある。
そんな本の函もめっきり見かけなくなった。函入り鈍器本で有名だった会社も、昔と比べたら函入りの本がすごく減っている気がする。

なぜだろう?本が売れないせいだろうか?それとも四年前に板橋区内にある箱をつくる会社が廃業されたせいもあるのだろうか?とにかく寂しいことである。

手製本の本はいくつかあるけれど、本の函づくりの方法が説明されているのは、まるみず組の井上夏生先生が出している本「いちばんわかる手製本レッスンー手でつくるほんと基本技法」だけのように思う。
角背の箱も、丸背の箱も作り方が詳しく書かれている。
自分でZINEなどを制作している方々は、箱つきのスペシャル版に憧れがある方もいるのでは?

測る、ボール紙を切る、内側の紙を貼る、組み立て接着する、外側にクロスを貼る……という手順で箱は出来る。
細かなコツは必要だけれど、本を参考に自分でマイ函作りを楽しまれてはどうだろうか?


この下の写真の段階まできたところで、先生が本を入れてチェックしてくださる。
きちんとサイズを測った筈なのに、どこかユルユル。これでは本を入れて下を向けたら、本が落ちてしまう。
そこで先生の助言で、この三辺をそれぞれ0.5ミリずつ切ることに。不器用かつ老眼の私には0.5ミリ切り落とすのも中々難しい。
でも何とか無事に切って再度接着。本を入れてみると、ピッタリ!下に向けても落ちてこない。
わずか0.5ミリでこんなに違うとは!吃驚しつつ先生の助言に感謝。

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さりはま書房徒然日誌2025年6月3日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月九日「私は炊き込みご飯だ」を読む

うつせみ山に一人暮らす老人が山道で危ない目にあったけれど、無事に危機を脱した祝いに作ったこと「炊き込みご飯」が語る。

丸山先生は、以前にも身の廻りにある安い材料で作る、すごく美味しそうなレシピを語っていたことがあった。

この炊き込みご飯も、食べたことのない味ながら、見るからに美味しそうな気がする。
このほとんどお金をかけない美味しさが、その後に続く老人の気持ちをよく引き立てているのかもしれない。

そして彼は
   サバの水煮缶といっしょに
      出盛りの根曲がり竹の筍を刻んで
         よく研いだ米に混ぜ
            手製の竈でじっくりと炊き上げ、

下ろし大根をおかずに
   炊きたての私を頬張りながら
      「まだまだ私も捨てたものじゃないなあ」と
          自画自賛をくり返した。

それから
   まだ生き延びたがっているおのれに気づいて
      「この救いがたい俗人め」と
          さも嬉しそうに呟きながら
             この期に及んでまだ悔んだりする自分を卑下し、 


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』223ページ)

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